家賃滞納者に夜逃げされました

賃貸用のオフィスビルを経営する不動産オーナーです。先日、家賃滞納をしていたテナント会社に夜逃げされてしまいました。その後も全く連絡がつきません。弁護士に依頼すると費用もかかるので、部屋に残った荷物はこちらで勝手に処分してしまってもよいでしょうか。

夜逃げの場合でも勝手に荷物を処分してはいけません

自力救済の禁止

家賃滞納者が残していった什器や備品を処分すれば多少のお金になるという場合、これを勝手に処分して未払い家賃に充ててしまいたい大家様の気持ちは分からないではありません。しかし、たとえ権利侵害を受けた場合でも、司法手続によらず自らの実力で権利の回復を図ることは自力救済といって、原則として禁止されています。家賃を滞納された不動産オーナー様についても同様で、たとえ賃貸借契約を解除した後であっても、実力で賃借人を強制退去させたり、賃借人の不在中に無断で貸室の鍵を変えたり、貸室内の荷物を処分してしまうことは避けなければなりません。賃借人が夜逃げしたからといって許されるものではないのです。

損害賠償を請求されるリスクも

自力救済によって賃借人に損害を与えた場合、民法上の不法行為にあたり、賃借人からの損害賠償請求を受ける場合があります。具体的には、勝手に処分した荷物の価値の損害賠償義務を負うことになりますが、その荷物が営業に必要なものであったなどの場合には、それ以上の損害賠償となるリスクもあります。

刑法との関係

自力救済のため暴行・脅迫を用いたり、賃借人に無断で貸室に侵入したり、勝手に賃借人の所有物を処分したりすれば、刑法に違反し犯罪になるおそれすらあります。万が一、刑事問題ともなれば、単なるお金の問題ではなくなってきてしまいます。

夜逃げ物件の明け渡しについて

任意の退去

夜逃げした賃借人を探し出し、荷物を賃貸人側で処分することの同意書を作成してもらうという方法があります。取得する連帯保証人の所在がわかる場合や、緊急連絡先の届け出があるような場合には、そのようなルートから賃借人の所在が判明するかもしれませんので、問い合わせてみるのも良い方法かもしれません。ただし、これらの者を窓口にして明渡しを受けるような場合には、本当に賃借人の同意があるのか慎重に判断してください。たとえ連帯保証人等の同意があっても、賃借人に無断であれば自力救済になりえます。

裁判・強制執行

家賃滞納者が夜逃げをしてしまった事案であっても、建物明け渡し請求訴訟を起こし、判決に基づいて強制執行をすることで立ち退きを完了させることは可能です。ただし、建物明け渡し請求訴訟を提起し、強制執行をするためには、相手方への訴状や判決の送達が必要とされています。この点、民事訴訟法では、相手方の所在がわからない場合であっても、裁判所の掲示板に訴状や判決を受け取るよう一定期間掲示し、送達があったものとみなす公示送達制度があります。しかし、家賃滞納者が賃貸物件に入居しており通常の送達ができる事案に比べると、公示送達には時間と現地調査のための手間がかかってしまいます。このため、賃借人が夜逃げをしてしまっている明渡請求事件では、通常の事案に比べると、立ち退きの実現までに余分な時間と手間を要することになるのです。

家賃滞納者の夜逃げを防ぐために

これまで述べてきたように、賃借人が夜逃げをしてしまっても自力救済が許されるわけではありませんし、かえって裁判や強制執行に余計な時間と手間がかかってしまいます。夜逃げを防げ、と言って完全に防げるものではありませんが、不動産オーナーにとっては大きなリスクになりますので、注意をしておくべき事柄です。夜逃げの後に家賃滞納が始まるような事案では気付くのも難しいかもしれませんが、家賃滞納後であれば察知できる場合もあるかもしれません。家賃滞納にあたっては早期に毅然と対応することがもちろん大事ですが、相手の様子をうかがって、時には柔軟に対応した方が経済的ということもありえます。

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