新築マンションの販売に際し眺望に関する説明義務違反の損害賠償請求が認められた事例

住宅の購入において、自宅からの眺望はその購入判断の重要な要素となることがあります。今回は、夫婦の新居とするために購入した新築マンションの眺望について、販売担当者の説明義務違反が肯定され、損害賠償請求が認められた事案について検討します(福岡地裁平成18年2月2日判決を題材とした事例)

損害賠償請求訴訟で認定された事実関係

売買契約の概要等

  • Xは、結婚を控えて新居を探しており、本件マンションが夫婦の各職場の中間地点だったことや、海が見えることが気に入り、Y社から建築前の本件マンションを2640万円で購入する契約を締結した。
  • 本件マンションの販売用パンフレットには「全戸オーシャンビューのリビングが自慢です」と記載され、完成予想図には「実際とは異なる」旨の注意書きがあったものの、海側には電柱その他の何らの障害物も記載されておらず、海が近いことや海が見えることが本件マンションのセールスポイントの1つだった。
  • Xは、本件マンションのモデルルーム(本件マンション建設予定地とは別の場所にあった)を3回訪れ、Y社の担当者に対し、同一企画の301号室(2640万円)と501号室(2760万円)について、ベランダからの眺望に違いがあるか訪ねたところ、違いはないとの回答を得たことなどから、301号室を購入する契約を締結した。
  • 契約当日、宅地建物取引主任者から、重要事項説明を受けたが、電柱等の存在については何も説明はされなかった。
  • マンション完成後の経緯

  • しかしながら、マンションが完成してみると、購入した部屋からの眺望は、ベランダのすぐ外に電柱、その支柱、3本の送電線が見える状態であった。
  • Y社の担当者は301号室と電柱等の位置関係を認識していなかったが、Y社は認識し得た。
  • 本件の契約では、売買代金は2640万円で、支払期日は引渡予定日前まで、手付金は100万円、違約金は528万円とされて、Xは契約日に手付金100万円を支払った。
  • Xは、電柱等による眺望阻害の事実を知った後、Y社に対し、解約を申し出、解約ができないのであれば他の部屋に変更することなどを求めたが、Y社はいずも拒否した。
  • そこで、Xは、Y社に対し、説明義務違反を理由とする債務不履行解除、支払った手付金の返還を求めて訴えを提起した

裁判所の判断

売主に説明義務が認められる場合について

本判決は、建築前にマンションを販売する場合は、購入希望者は現物を見ることができないのであるから、売主は、購入希望者に対し、販売物件に関する重要な事項について可能な限り正確な情報を提供して説明する義務があり、とりわけ、居室からの眺望をセールスポイントとしているマンションにおいては、眺望に関する情報は重要な事項といえるから、可能な限り正確な情報を提供して説明する義務があるとした。

そして、この説明義務が履行されなかった場合において、もし説明義務が履行されていれば買主は契約をしなかったであろうと認められる時には、買主は、売主の説明義務違反(債務不履行)を理由に契約を解除できるとした。

Yに説明義務違反があったか否かについて

本判決は、次のような点を指摘して、Y社には、電柱等が301号室の眺望に影響を与えることを具体的に説明すべき義務があったというべきであると判断した。

  1. Y社は、本件マンションの販売の際、海側の眺望をセールスポイントとして販売活動をしており、Xもこの点が気に入って5階と眺望の差異がないことを確認して301号室の購入を検討していたこと
  2. 301号室にとって、本件の電柱等による眺望の阻害は小さくないこと

本件でXは契約を解除できるかについて

本判決は、Xは眺望を重視しており、301号質と501号室のいずれにするかを決定する際、Y社の担当者から眺望には変わりがないとの説明を受けたので301号室に決めたことからすれば、Y社が説明義務を履行していれば、Xは501号室を購入して301号室を購入しなかったと認められるから、Xは契約を解除することができる、とした。

弁護士のコメント

本事例のように、買主が眺望にこだわっていた場合において、売主が、眺望を阻害する要因があることについて説明をしなかったために買主が契約を決意したような場合、買主を保護するために裁判で主張する法律構成としては、主に以下のようなものが考えられます。

  1. 眺望を保証する特約があったとしてその債務不履行に基づく契約の解除及び損害賠償請求
  2. 消費者契約法による取消
  3. 説明義務違反に基づく契約の解除及び損害賠償請求

1 眺望を保証する特約について

このうち、1の眺望保証特約不履行に基づく契約の解除及び損害賠償請求については、そもそもこのような特約は、余程のことがないその立証が困難と考えられ、本件でもこのような主張はされていなかったようです。

2 消費者契約法による売買契約の取消について

そのためか、実際の本事例では、Xは2と3を主張していたわけですが、判決では、2の主張は認められていません。

この点、2の消費者契約法による取消については、事業者が重要事項について「事実と異なること」を告げ、消費者がその内容が事実であると誤認したこと(消費者契約法4条1項)、あるいは、事業者が重要事項についての不利益事実を故意に消費者に告げなかったために消費者がその不利益事実が存在しないと誤認したこと(同条2項)などが前提となります。

本判決は、「事実と異なること」(消費者契約法4条1項)とは主観的な評価を含まないとし、301号室と501号室の眺望が同一か否かということは主観的な評価を含むため、「事実と異なること」には該当しないと判断し、さらに、Yの故意を否定して、同条1項と2項に基づくXの請求を認めませんでした。

3 説明義務違反について

次に、3の売主の説明義務違反が認められるためには、売主に説明義務があったことが前提となります。そして、眺望について売主の説明義務が認められるためには、一般的には、眺望の阻害要因がある程度具体的な形で現に存在し、かつ、売主がそれを知り得る(ないしは知るべき)状況にあったことのほか、買主が売買契約締結にあたり眺望を重視していることを売主が認識していたこと等が前提になると考えられます。

本件では、電柱等の位置関係から、301号室の眺望阻害要因がある程度具体的な形で存在したと評価し得ること、Y社は電柱等の位置関係を認識し得たこと、Xが眺望を重視していることをY社も認識していたことなどからすれば、Y社の説明義務違反を認めた本判決は妥当であるといえるでしょう。

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