土地の売買当時、現況と公図の記載が異なっていた場合における、瑕疵担保責任と仲介業者の説明義務

土地を購入したところ、その土地の現況と公図の記載とが異なっており、後日、隣接地を購入した者との間で所有権をめぐる紛争が生じてしまった場合、その土地の買主は、売主や仲介業者に対して、何らかの請求をすることができるでしょうか。以下では、仲介業者に対する損害賠償請求が認められた事例(東京地裁平成22年3月9日判決を題材とした事例)を分析します。

本件訴訟で認定された事実関係の概要

本件土地及び隣接地について

  • Y1は、昭和36年7月3日、Dから、東京都内のa丁目23番地所在の土地のうち、区立a丁目防災広場(以下「防災広場」という。)、Aたばこ店及び公道に接する別紙現況求積図(以下「現況求積図」という。)記載の現況の土地(以下「本件土地」という。)を購入した。
  • 本件土地は、北側で防災広場と、南側でAたばこ店と、西側で公道と接している。
  • 防災広場の地番は23番37であり、その現況は、公図記載の形状とおおむね一致している。
  • Aたばこ店の南方には、Eの所有地があり、その地番は20番15であるところ、その現況は、公図記載の形状とおおむね一致している。
  • 公図上、23番11の土地は、南側で20番15の土地と接し、北側で23番31の土地と接しており、かつ、道路とは接していない。公図上、23番31の土地は、北側で23番37の土地と接しているが、道路には面していない。

売買契約について

  • Y1の前代表取締役であるCは、長期間使用されていなかった本件土地上の社員寮を取り壊して、本件土地を売却する準備に入った。
  • Y1は、平成12年ころ、Y2に対し、本件土地の売却の仲介業務を委託し、その際、本件土地とその上の建物の登記簿謄本及び周辺の土地を含む公図の写し等を交付した。その後、Y2は、本件土地上の建物を取り壊し、平成12年4月ころ、更地となった本件土地の測量を行った。
  • Xは、2世帯住宅の家屋を建築するための土地を探していたところ、平成12年5月中旬ころ、本件土地が売りに出されていることを知って興味を持ち、同月24日ころ、Y2を訪れた。Xは、Y2から、本件土地の現況求積図及び公図を示され、そこに23番11との記載があったため、本件土地の地番はその記載のとおりであると認識した。Xは、本件土地を購入することを決意し、売買の決済日は平成12年5月31日とすることとなった。
  • XとY1は、Y2代表者Bの仲介、立会の下、平成12年5月31日、本件土地につき、代金を2200万円と定めて売買契約を締結し、Xは、同日、上記代金を支払った。
  • Xは、同日、Y2に対し、本件売買における仲介手数料として、75万6000円を支払った。
  • XとY1は、同日、本件売買に関し、以下の内容の土地売買契約書を取り交わした。
    1. 売主 Y1
    2. 買主 X
    3. 売買物件 土地(所在地:a丁目,地番:23番11,地目:宅地,地積:58.94m2)
    4. 代金 2200万円
  • Xは、同日、Y1との売買を原因とする本件登記に係る手続を了した。

売買契約後について

  • Xは、本件売買の後、本件土地において駐車場業を営んでいる。
  • Hは、平成19年2月1日、23番31の土地に係る所有権移転登記手続を了し、同年7月20日、Xに対し、本件土地の大部分が23番31の土地に含まれているとして、本件土地の明渡し及び同年2月1日から本件土地の明渡済みまで1か月15万円の割合による賃料相当損害金の支払を求める旨の内容の通知書を送付した。
  • Xは、Y1に対しては、公図と現況に齟齬があるとして、瑕疵担保責任による本件売買契約の解除を主張し、売買代金相当額等合計2298万円余の支払を求め、Y2に対しては、本件土地の権利関係に問題があること等についての説明義務の不履行を理由に同額の損害賠償を求めて訴えを提起した。

裁判所の判断

公図の記載と本件土地の現況との間に齟齬があること等が本件土地の瑕疵にあたるか

本判決は、①本件土地の地番は23番11か23番31のいずれかである可能性が高いものの、両土地の正確な形状、境界を認めるに足りる証拠がないため、本件土地の地番が23番11であるか23番31であるかを確定することができないこと、②Xが、23番31の土地の登記を有するHから、本件土地の明渡し等を請求されていることを理由に、「本件売買当時、本件土地についてはその所有権をめぐる紛争が将来生じる可能性があったものといわざるを得ず、このような土地は、売買取引をするについて通常有すべき性能を備えていないものということができるから、本件土地には瑕疵があったものと認められる。」と判断しました。

買主Xによる本件売買契約の解除の可否

本判決は、「①Xは、現に本件土地において駐車場業を営み、収益を得ていること、②Xの本件土地を購入した当初の目的は、住宅を建築することであり、本件土地を転売する目的ではなかったこと、③本件土地の所有権をめぐる紛争が顕在化したのは、HがXに前記通知書を送付したころであり、これは、既に、本件売買から7年が経過していたことを考慮すると、本件土地に存する前記瑕疵は、本件売買の目的を達成することができない程のものとまでは認め難い」として、Xの解除の主張を認めませんでした。

瑕疵担保責任に基づく売主に対する損害賠償請求の可否

本判決は、瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求については、以下の理由から、除斥期間(権利行使ができる期間)が経過したとして、認めませんでした。

すなわち、①Xは、本件土地を購入した数ヶ月後に本件土地を駐車場として利用するため公図を確認したところ、本件土地の地番が23番11ではなく23番31ではないかとの疑問を持ったこと、②Xは、平成17年9月12日、本件土地に近接する居宅の民事執行に係る現況調査を担当していた東京地方裁判所執行官と面談して、23番11の位置関係について陳述する機会を持ったことなどから、本件土地の地番が23番11であるのはおかしいということを明確に認識した。その後、Xが1年以内にY1に対して損害賠償の請求をしたことについての主張立証は存しない。

仲介業者Y2の説明義務違反の有無

本判決は、「Y2は、Xから本件売買における仲介業務を受託した不動産業者であるから、本件土地の権利関係を調査することはもちろんのこと、本件土地の権利関係に疑義が生じるおそれのあることを認識した場合には、これをXに説明し、Xが本件土地に関する正確かつ適切な情報に基づいて取引することができる環境を整える注意義務を負っていたものと認められるところ、Y2は、本件売買当時、本件土地について、現況求積図の地形と公図の地形が大きく異なり、登記簿上の面積と現況の面積に違いがあることを認識していたにもかかわらず、Xに対し、本件土地の上記性状により生じ得る問題について何らの説明もしなかったのであるから、Xとの仲介契約に基づく上記注意義務を怠ったものと認められる。」と判断しました。

Xの損害額について

もっとも、本判決は、Xは、Y2の仲介により本件土地を購入後、Hから前記通知書の送付を受けるまでの約7年間にわたり、本件土地を何らの支障無く使用することができ、その後も駐車場として利用し収益をあげていることを考慮して、Y2の上記債務不履行によりXが被った損害の額は、本件売買代金の3割に相当する660万円であると判断しました。

弁護士のコメント

本件では、土地の売買契約において現況と公図記載の形状とが大きく異なる場合に、このような土地の形状を知りながら何らの説明もしなかった仲介業者の損害賠償責任が認められました。

本件のように、公図と現況に大幅な齟齬(ずれ)のある地域は、現在でも少なからず存在します。このような公図混乱地域(地図混乱地域)では、同一の土地の上に複数の登記記録が存在して地権者が複数存在するなど紛争が生じることも想定されますので、買主の側から見れば特に注意が必要といえるでしょう。また、売主としても、本件では除斥期間により請求が棄却されましたが、瑕疵担保責任を負う可能性も十分あります。

なお、公図と現況のずれについては、以下のサイトから確認することもできます。

参考:都市再生街区基本調査及び都市部官民境界基本調査の成果の提供システム

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