抵当権が設定された不動産持分の共有物分割

共有している土地に抵当権がついている場合、その土地を分割する際には、何か注意すべきことはあるでしょうか。このページでは、次のような具体例を前提に、抵当権の付いた不動産の共有物分割について弁護士が解説します。

  • AさんとBさんの2人が父から相続した300坪の土地を共有
  • 共有持分は、Aさんが3分の1で、Bさんが3分の2
  • Aさんは、Cさんから借金をしており、この土地の自分の持分に抵当権を設定している

現物分割と抵当権の効力

例えば、AさんとBさんが話しあって、300坪の土地のうちAさんが100坪、Bさんが200坪を単独取得する協議をまとめたとしましょう。このような現物分割を行う場合、抵当権の効力はAさんの取得部分だけに限定されるでしょうか。

判例の結論 - Bの取得分にも抵当権の効力が

このような問題については、昭和初期の大審院判例ではありますが、リーディングケースとされる判決があります(大審院判決昭和17年4月24日)。この判決では、Cさんの抵当権は、共有物分割後も、Aさんの持分の割合において共有物全部の上に存在するとしています。

つまり、この判決に従えば、上記の場面においても、Cさんの抵当権は、Aさんが取得した100坪の土地に「Aさんの持分の割合」である3分の1の割合で及ぶとともに、Bさんが取得した200坪の土地についても「Aさんの持分の割合」である3分の1の割合で及ぶということになります。要するに、この判決によれば、Bさんも抵当権の負担のついた土地を取得することになるわけです。 

判例の理由

なぜ、判例はこのような結論を採用しているのでしょう。この点については、上記の判決が、概ね次のようなことを述べています。

  • 共有物分割後、抵当権の効力が抵当権設定者の取得する不動産のみに集中するとすれば、分割が正当に行われた場合には、便宜であり公平を欠くことにはならない
  • しかし、例えば抵当権設定者が故意に持分の割合以下の現物を取得するなど、分割が正当に行われなかった場合には、抵当権者の利益が害される恐れがある

具体的にいえば、Aさんの取得する土地のみに抵当権が及ぶと考えると、例えばAさんが10坪、Bさんが290坪の土地を取得する分割協議を成立させた場合に、CさんはAさんの10坪分の土地にしか担保権を行使できないという不公平が生ずるということです。

判決でも指摘されていますが、共有物分割協議が、抵当権者の知らないところで共有者の合意のみによって自由に行うことができる点を考慮すれば、判決の結論は妥当なものといえるでしょう。

現物分割をする場合の注意点

以上のとおり、土地を現物分割しようとする場合には、分割後も共有不動産全体の上に抵当権が残存することに注意が必要です。

もっとも、実際の現物分割の場面では、公平な分割内容である限り、Aさんの取得部分に抵当権を集中させる方が当事者の希望に合致するかもしれません。そのようなときは、共有物分割に際し、Aさんの取得不動産に新たに抵当権を設定するとともに、Bの取得不動産に対する抵当権を解除してもらうよう抵当権者と交渉するとよいでしょう。

全面的価格賠償と抵当権の効力

では次に、AさんかBさんのどちらかが土地の全部を取得した上で、他方に対して価格を賠償する全面的価格賠償の分割方法をとった場合、Cさんの抵当権はどうなるでしょうか。 

抵当権設定者(A)が不動産を取得する場合

この場合について、リーディングケースとなる判例はありません。他方、学説上は、Cさんの抵当権がAさんの取得した土地に及ぶことについて争いはないようです。

ただし、Aさんの取得した土地全部に及ぶのか、それとも当初のAさんの持分である3分の2についてのみ及ぶのかについては、見解が分かれています。

抵当権非設定者(B)が不動産を取得する場合

Bさんが土地の全部を取得してAさんに価格賠償をする場合についても、リーディングケースとなる判例はありません。

多数説

学説上は、Bさんが取得した土地にCさんの抵当権が残るとする見解が多数派とされています。この見解によれば、Bさんは抵当権の負担のある土地を取得することになりますので、AさんがCさんにきちんと弁済しない限り、抵当権を実行されてしまう危険があります。

少数説

一方、Bさんが取得した土地にはCさんの抵当権が残らないという少数派の立場に立った場合、Bさんは抵当権の負担のない土地を取得できます。この見解によれば、Cさんは、Aさんに対し、Bさんから賠償金として受け取る金銭を自己に支払うよう請求することができます(これを物上代位(ぶつじょうだいい)といいます)。 

価格賠償の場合の注意点

以上のとおり、全面的価格賠償による分割をしようとする場合には、土地を全部取得しても抵当権の負担が残る可能性が高く、Cさんによって抵当権を実行されてしまう危険があるということには注意が必要です。

Bさんがこうしたリスクを許容できないというときには、自ら土地を取得するのではなく、自己の持分をAさんに譲り、Aさんから価格賠償をもらう方が安全です。 

まとめ

以上をまとめると、共有者の1人が抵当権を設定している場合には、他の共有者としては、分割方法によってはその抵当権を負担しなければならない場合があるため、注意が必要です。

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