損失補償の内容

土地収用の場合の損失補償基準と任意取得の場合の損失補償基準とは、厳密には完全に一致するものではありませんが、大まかな補償項目は一致します。ここでは、交渉の最初の段階で問題となる任意取得の場合の損失補償基準(「公共用地の取得に伴う損失補償基準」)の規定を基に、主要な補償項目について説明します。任意取得の場合の損失補償基準においても、土地収用の項で述べた「個別払いの原則」と「金銭払いの原則」が妥当します。

土地の取得に関する補償

土地の正常な取引価格

取得する土地に対しては、土地の正常な取引価格をもって補償するものとされています。土地の正常な取引価格は、取引が行われた事情や時期等に応じて適正な補正を加えた上で近隣同種の土地の取引価格を基準とし、その近傍類地と、取得される土地について、形状、接道状況、環境、収益性等の土地価格形成上の諸要素を総合的に比較考量して算定されます。

土地上に建物などがある場合

当該土地に建物その他の物件があるときは、当該物件がないものとしての当該土地の正常な取引価格によるものとされています。ただし、土地に関する所有権以外の権利(借地権等)の目的となっている土地については、当該権利がないものとして算定された土地価格から、当該権利の価格を控除した額をもって補償するものとされています。個別払いの原則が適用され、権利者には別途補償がなされるため、土地の所有者はその分を控除した補償のみを受けられるということです。

土地取得後の事業の影響

土地を取得する事業の施行が予定されることによって当該土地の取引価格が低下したと認められるときは、当該事業の影響がないものとしての当該土地の正常な取引価格によるものとされています。例えば、火葬場・墓地・下水処理場などの嫌悪施設の建設事業予定地の周辺で、すでに地価の下落が始まっているような場合にも、そのような施設の建設が予定されたことによる価格下落前の価格で補償を行うということです。

残地に関する補償

土地の取得により、残地の価格の低下、利用価値の減少等の損失が生じるときは、これらの損失額が補償されます。なお、建物を残地以外に移転することが通常妥当とされる場合、残地を売却して代替地の購入資金に充てる必要が生じることがあります。このような場合の売り急ぎによる売却損も補償の対象となります。

権利の消滅に関する補償

土地の取得等のために、消滅させる土地に関する所有権以外の権利(借地権等)に対しては、正常な取引価格(一般的に譲渡性のないものについては、土地の正常な取引における当該権利の有無による土地の価格の差額)をもって補償するものとされています。また、土地の場合と同様、事業による価格下落分は修正して補償されます。

建物の移転に関する補償

土地の取得に伴って建物を移転する必要が生じる場合には、残地もしくはそれ以外の土地で通常妥当と認められる移転先に、通常妥当と認められる移転方法によって、移転するのに必要な費用を補償するものとされています。通常妥当と認められる移転方法(移転工法)には以下のものがあります。

再築工法

残地以外の土地に従前の建物と同種同等の建物を建築することが合理的と認められる場合に採用される工法(構外再築工法)と残地に従前の建物と同種同等もしくは従前の建物に照応する建物を構築することが合理的と認められる場合に採用される工法(構内再築工法)とがあります。

曳家工法

曳家後の敷地と建物等の関係、建物の構造及び用途、建物の部材の希少性の程度等を勘案して、建物を曳家することが合理的と認められる場合に採用される工法です。

改造工法

建物の一部を切り取り、残地内で残存部分を一部改築し、もしくは増築して、従前の機能を維持することが合理的と認められる場合に採用される工法です。

復元工法

文化財保護法等により指定されている場合その他原形で復元することが合理的と認められる場合に採用される工法です。

営業に関する補償

土地の取得に伴って土地上で行っていた営業が影響を受ける場合には、営業が受ける影響の種別にしたがって、次のような補償を受けることができます。

営業廃止の補償

土地の取得等により、通常営業の継続が不能となると認められるときに、なされる補償です。特定地に密着した有名店、法令等や物理的もしくは社会的条件により営業場所が限定される業種、並びに、生活共同体を営業基盤とする店舗等で当該生活共同体の外では顧客の確保が特に困難と認められる場合等に該当し、かつ、個別事情を調査の上、社会通念上、妥当な移転先がないと認められる場合にのみ、通常営業の継続が不能となると認められます。

営業休止の補償

土地の取得等により、通常営業を一時休止する必要があると認められるときに、なされる補償です。建物等の支障となる程度、業種、移転方法等により、営業を休止させる範囲(全部か一部か)及び休止させる期間が異なってきます。土地の取得に伴い建物の移転を生じる場合には、多くのケースでこの類型の営業補償が問題となります。

営業規模縮小の補償

土地の取得等により、通常営業の規模を縮小しなければならないと認められるときに、なされる補償です。営業用建物を改造工法により、その規模を縮小して残地に存置する場合、もしくは、その規模を縮小して構内移転をする場合にのみ、通常営業の規模を縮小しなければならないときに該当しえます。

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