借家人が受け取る立ち退き料と税金

個人で飲食店を経営しています。賃貸で入居していた店舗物件のオーナーから建て替えのために退去して欲しいと頼まれ、交渉の結果、立ち退き料を受け取ることで店舗を移転することになりました。立ち退き料には税金がかかるのでしょうか。

立ち退き料と所得区分

個人が立ち退き料として金銭を受け取った場合、その趣旨・性格に応じて、所得税の計算上、次のような所得区分の収入金額とされます。

1 資産の消滅の対価補償としての立ち退き料

借家権に資産性が認められ、賃貸物件の明け渡しにより借家権が消滅することの対価として立ち退き料が支払われる場合には、その金額に相当する部分は譲渡所得の総収入金額に計上されます。なお、借家権消滅の対価としての立ち退き料を受け取った場合の譲渡所得については、借地権の場合と異なり総合課税となります。

2 収入金額又は必要経費の補填としての立ち退き料

賃貸物件を立ち退くことにより、その物件で営んでいた事業は廃業や休業を余儀なくされることになります。そのような場合に減少する収入や増加する費用を補うために立ち退き料を受け取る場合、その金額に相当する部分は事業所得の収入金額として計上されます。例えば、休業期間中に得られるはずであった売上相当額の補てんや、休業中に従業員に支払う給与相当額などがこれに当たります。

3 その他の性格の立ち退き料

上記以外の性格の立ち退き料は、一時所得の収入金額として計上されます。

立ち退き料の性格等が争われた裁判例

立ち退き料の性格等が争点となった裁判例として、ここでは東京地方裁判所平成17年5月20日判決を紹介します。概要としては、借家人である原告が、賃貸建物の建て替えに際し、賃貸人より、代替資産として建て替え後のマンションの居室所有権と和解金を取得したことについて、取得した所有権や和解金がどのような所得区分の収入となるかが争われたという事案です。

代替資産の所得区分

原告は、自身が取得した建て替え後の建物居室にかかる収入について、これは借家権という資産の譲渡対価であり譲渡所得に該当すると主張しました。これに対し、判決は、借家権の譲渡が資産の譲渡と認められるためには、借家権に譲渡性が認められるかどうかという観点から判断されるべきであるとした上、そのためには、契約や慣行などによって譲渡性が認められているといえる特段の事情が必要であるとしました。そして、事案の結論としても、このような特段の事情がないため、代替資産としての居室取得にかかる収入は、譲渡所得ではなく一時所得と解すべきと判断しています。

和解金の所得区分

原告は、和解金として取得した金銭には、賃貸人側の債務不履行による損害金や不当抗争慰謝料など非課税に該当するものが含まれているから、当該部分は一時所得に該当しないと主張しました。これに対し、判決は、賃貸人が債務不履行による損害賠償責任を負うことが明らかであったといえず、あくまで「和解金」名目で支払われた金銭である上その内訳も不明であるなどとして、和解金はその全体が紛争解決金であり一時所得となる旨判断しました。

まとめ

以上のように、借家人が受け取る立ち退き料に関する税金については、これをどのような所得区分とするかについて専門的な判断が必要となる場合があります。また、立ち退き交渉時に立ち退き料の内訳を明確にしておくことによって、納税時のトラブルを回避できる可能性もあるでしょう。この意味で、立ち退き交渉を行うにあたっては、こうした税金の問題も考慮しつつ、専門家と相談しながら交渉することをお勧めします。

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