渋谷駅周辺の再開発に伴う立ち退き事例

賃貸人である原告が、本件建物の敷地を含む渋谷駅周辺地区の再開発計画の円滑な遂行等を理由に、東京都渋谷区所在の本件建物について、留学生の出航手続の代行業務及び介護事業を営む賃借人である被告に対し、明け渡しを求めた事案。裁判所は、立ち退き料896万6285円の支払と引換えに原告の請求を認めた。

立ち退き請求訴訟の事実関係

立ち退き請求の対象不動産

  • 鉄骨・鉄筋コンクリート造陸屋根地下1階付9階建ての建物(事務所・診療所・店舗)
  • 各階の床面積58.95㎡
  • 7階部分のうち約45.29㎡
  • 建物の敷地 宅地67.60㎡
  • 昭和45年6月2日新築(更新拒絶時点で築40年経過)
  • 渋谷駅徒歩数分で大通りに面した角地という立地

賃貸借契約の概要等

  • 賃貸人(X):不動産賃貸業(法人)
  • 賃借人(Y):留学生の出航手続の代行業務及び介護事業(法人)
  • 賃貸借の始期 昭和57年11月9日
  • 更新拒絶時の約定賃貸借期限 平成23年11月8日
  • 更新拒絶時の賃料 月額26万7150円(別途消費税)
  • 更新拒絶の時期 平成23年4月20日(通知書の日付)ころ
  • 賃貸人が申し出た立ち退き料の額 400万円もしくは裁判所が相当と認める金額

裁判所の判断

正当事由について

本件更新拒絶には、必要性、合理性が認められ、他方、Yが本件建物を使用する必要性は認められるものの、移転に伴って発生する損害を立ち退き料(896万6285円)として支払って、移転に伴う損害を填補すれば、正当事由が認められる。

賃貸人側の事情

  • 本件建物が所在する地区について、都市再生法37条1項に基づく都市再生特別地区の都市計画の素案が東京都に受理され、平成25年6月17日、都市計画決定が告示されている。
  • 本件建物は築後40年が経過して老朽化が進行し、その維持管理には、相当の費用を要する。
  • 本件建物敷地を周辺の土地と一体として有効利用し(地上33階地下5階の複合ビル等の建築が予定され、平成29年度の竣工が目標とされている。)、権利変換により複合ビル内に権利床を取得するというXの計画には、合理性、相当性が認められる。

賃借人側の事情

  • 移転費用等の諸費用、従来からの顧客の継続手続に関連して経済的損失が発生する。
  • 本件建物の老朽化が進行していること、周辺の開発状況からして、Yが今後も長期にわたって、本件賃貸借契約を継続することは困難と推測される。
  • 渋谷駅から徒歩5分程度で、かつ、従前の電話番号を継続使用できる賃貸物件を探すことは比較的容易であり、代替物件において、従前と同様の事業を行うことは可能と認められる。

立ち退き料の算定要素

  • Xが提出した公共用地の所得に伴う損失補償基準(用対連基準)を参考として作成された調査報告書については、一応の合理性が認められる。この報告書とYの主張及び証拠を検討した上で、Xは366万6285円の立ち退き料(借家権価格は考慮されていない。)を相当であると自認している。
  • Yが提出した不動産鑑定士の意見書については、移転に係る費用の補償を868万5950円とする部分及び営業利益(将来利益)の補償を355万4054円とする部分は合理性が認められないが、狭義の借家権価格を1060万円とする部分については、一応の合理性が認められる。
  • Xが自認する立ち退き料366万6285円に借家権の価格を加算して補償するのが妥当であり、本件の事情では、Yが提出した意見書で評価された狭義の借家権価格1060万円の半額である530万円をもって、加算すべき借家権の価格とするのが相当である。

弁護士のコメント

再開発計画と正当事由

建物の老朽化や耐震性よりも、再開発計画の円滑な遂行を正当事由の前面に出している点に特殊性のある事案です。判決でも、耐震性や建物の現況については詳細に触れることなく、立ち退き料の補完により正当事由が認められると認定しています。ただし、仮に後述の本件の事情とは異なり、賃借人の利用目的が事務所でなく地域密着型の有名店舗であり、立ち退き料の交渉も全くできなかったような事案であったならば、どのような認定となったかには興味があります。

立ち退き料の算定について

Yの利用目的が事務所で物件に代替性がありそうですし、かつ、Xからは裁判所が相当と認める額の立ち退き料の申し出、Yからも立ち退き料額についての不動産鑑定士の意見書が提出されている事案ですので、おそらくは立ち退き料の多寡が主要な争点であったものと推測されます。裁判所の鑑定は経ておらず、双方が提出した資料に表れた費目・数字のみを基に結論を導いていますので、立ち退き料の算定方法については参考程度に捉えておいた方が無難です。

法律相談のご予約はこちら

メールでのご予約

  • お問い合わせフォームへ