家賃滞納者が自己破産

駅前の店舗用物件の賃貸オーナーをしています。テナントとして入居中の飲食店が昨年から家賃を滞納するようになりました。何度も催促してきたのですが、先日、ついに閉店をして自己破産するという通知を受けました。今後の賃貸借契約はどうなるでしょうか。滞納賃料や原状回復のことも心配です。

賃借人の破産と賃貸借契約の解除

賃貸人からの解除

テナントが自己破産するという通知を受け、賃貸借契約を少しでも早く解除したいとお考えの不動産オーナーも多いと思われます。賃貸人である不動産オーナーは、賃貸借契約を当然に解除することができるのでしょうか。

旧民法621条の削除

破産法が改正される以前の民法には、賃借人が破産した場合に賃貸人からの解除が認める規定(旧民法621条)が置かれていました。しかし、破産法の改正にともないこの規定が削除されたことにより、現在の法律のもとでは、賃借人が破産した場合であっても、そのことを理由として賃貸人が当然に契約を解除することはできなくなってしましました。

債務不履行による解除

賃借人が破産したことを直接の理由とする賃貸人からの解除が認められなくなったとしても、賃借人が契約違反(債務不履行)をしたことを理由とする解除が否定されるわけではありません。したがって、破産に至るまでの間にテナントが家賃滞納を繰り返している場合には、破産とは関係なく、債務不履行を理由とする賃貸借契約の解除が可能となります。但し、このような解除については、信頼関係破壊の法理による一定の制限が加わることには注意が必要です。

特約による解除

賃貸借契約書によっては、「賃借人が自己破産の申立をし、あるいは破産手続開始決定を受けたときは、賃貸人が当然に賃貸借契約を解除できる」という解除特約が付されているケースがあります。賃貸人としては、かような特約条項に基づく解除をすることが考えられますが、旧民法621条の削除の影響もあり、特約条項自体の効力が否定されたり、信義則等により解除権の行使を制限をされたりする可能性は高いです。

破産管財人による解除

賃借人であるテナントが破産すると、裁判所により選任された破産管財人が、破産者の財産の処分や契約関係の処理を行います。破産管財人による賃貸借契約の解除についてみていきましょう。

破産法に基づく破産管財人の解除権

破産法53条1項には、「双務契約について破産者及びその相手方が破産手続開始の時において共にまだその履行を完了していないときは、破産管財人は契約の解除をし、又は破産者の債務を履行して相手方の債務の履行を請求することができる。」という規定があります。これを破産管財人による双方未履行契約の解除権といいます。賃貸借契約は、通常、ここでいう双方未履行契約にあたりますので、破産管財人はこの規定に従って、賃貸借契約を解除するか、それともそのまま継続するかを選択することになります。

破産管財人に対する確答催告

破産管財人が賃貸借契約の解除か継続かの選択権を行使しないときは、賃貸人は不安定な立場におかれます。そこで、破産法は、賃貸人が破産管財人に対し、相当の期間を定めその期間内にいずれを選択するかを答えるよう催告することができると定めています。破産管財人がその期間内に回答をしない場合には、破産法53条2項により、その賃貸借契約は解除されたものとみなされます。

破産管財人が契約の継続を選択する場合

破産者が行っていた事業は廃止されるのが通常ですが、状況によっては破産管財人の判断により裁判所の許可を得て事業を継続し、その後第三者に営業譲渡するという方式がとられることもあります。このような場合には、破産管財人の選択により、その事業に必要な賃貸借契約は継続されることが多いでしょう。また、借地の場合であれば、破産管財人が借地契約の継続を選択した上、借地権の譲渡を目指すということもあります。

賃料の取り扱い

テナントが破産した場合、その賃料はどのような扱いになるでしょうか。賃借人が破産した場合の賃料の取り扱いについては、その賃料が破産手続開始決定前のものか、破産手続開始決定後のものかが区別のポイントとなります。

破産手続開始決定前の賃料

テナントが自己破産の申請をすると、裁判所は関係書類を審査し、問題がなければ破産手続開始の決定を出します。それ以前に発生した滞納賃料については、賃貸借契約が解除となろうが継続されようが、「破産債権」として一般の債権者と同様の地位におかれることとなります。したがって、例えば配当に充てられる破産会社の財産が破産債権の10%しかない場合には、破産手続によって滞納賃料の10%分の配当だけを受けるということになります。但し、連帯保証人が他にいる場合にはもちろんそちらに請求できますし、敷金や保証金を預かっているという場合であれば、その範囲内で未払い分を回収することは可能です。

破産手続開始決定後の賃料

破産手続開始決定後に生じた賃料については、原則として、その根拠はそれぞれ異なるものの、賃貸借契約が解除となるか継続となるかにかかわらず、「財団債権」として破産管財人からの支払を受けることができます。なお、「財団債権」と「破産債権」の違いは次のように整理できますが、「財団債権」は「破産債権」と比べて回収の可能性が高くなります。

  • 破産債権 破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権であって、財団債権に該当しないもの。財団債権とは異なり、配当手続きによって支払を受けることになります。
  • 財団債権 破産手続によらないで破産財団から随時弁済を受けることができる債権。破産債権より優先して支払を受けられます。

原状回復費用について

賃貸借契約が終了した場合、賃借人は原則として賃貸目的物の原状回復義務を負います。賃借人が原状回復を自ら行わない場合、賃貸人がその費用を立て替えて原状回復を行い、その後原状回復費用を賃借人側に請求することになりますが、賃借人破産の場合、その費用負担の取り扱いはどのようになるでしょうか。

破産手続開始前に賃貸借契約を終了した場合

破産手続開始決定前に賃貸借契約が終了した場合、原状回復費用請求権は「破産者に対し破産手続開始前の原因に基づいて生じた財産上の請求権」であり、「破産債権」として取り扱われます。敷金や保証金を預かっていればそこからの控除は可能ですが、敷金や保証金を超える費用が発生する場合には、超過部分については破産手続で配当を受けるしかありませんので、全額の回収は極めて困難となります。

破産手続開始後に賃貸借契約を終了した場合

破産手続開始決定後に賃貸借契約が終了した場合、原状回復費用請求権は、「財団債権」として取り扱われることが一般的です。この場合であれば、「破産債権」よりも優先した弁済が受けられるということになりますので、破産手続開始決定前に賃貸借契約が終了した場合と比べると、賃貸人の回収可能性は高まるといえるでしょう。

破産申立前の合意解約には要注意

上記のとおり、賃貸借契約がどのタイミングで終了するかによって、原状回復費用の取り扱いには違いがあります。敷金や保証金が潤沢であり、原状回復費用の回収リスクがない場合には問題がありませんが、そうではない場合、賃貸借契約終了のタイミングを破産手続開始決定後にした方が回収可能性が高まる場合もあります。破産を予定している会社の代理人弁護士から、自己破産申請前に賃貸借契約の合意解約を求められたようなケースでは、上記のような観点からの見極めも重要です。

テナントが破産した場合の対応は弁護士にご相談を

以上のように、テナントが破産した場合に不動産オーナーが取るべき対応は、破産法の知識を踏まえたものであることが必要になります。とりわけ本問のように、借主が事業を営んでいるような場合には、多額の原状回復費用が発生することなどもありますので、一度は弁護士に相談するなどして、慎重な対応をするべきでしょう。当事務所においても、賃借人破産に対する対応のご相談をお受けしておりますので、是非ご活用ください。

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