購入した中古不動産が自殺事故物件であった事例

不動産売買取引では、購入後に物件に問題が見つかったことでトラブルとなる事例が少なくありません。以下では、原告Xが,被告Yからマイホームとするための土地建物を購入した後、自殺の事実が判明したため、隠れた瑕疵があったとして,民法570条,566条により契約を解除して損害賠償を請求した事例を分析します(浦和地裁川越支部平成9年8月19日判決を題材とした事例)。

損害賠償請求訴訟で認定された事実関係

売買契約の概要等

  • Xは夫婦で老後をおくる閑静な住居を求めていた。
  • Yは,仲介業者に対して自殺の事実は伏せたまま,単に「古家あり」として売却するように依頼
  • 本件不動産は,「売地」と表示して代金7560万円で売りに出されていたが,XとYの交渉の結果,7100万円で売買が成立した。
  • 売買契約上,手付金300万円を契約締結時に支払い,残金は3ヵ月後の月末までに支払うこととされた。
  • Xは、手付金と残金を契約どおり全て支払い,土地と建物の引渡しを受けたが,その数日後,契約締結の約5ヶ月前にこの建物内でYの親族が首吊り自殺をしていたことを知った。
  • 売買契約書には,特約として「Yは,本件建物の老朽化等のため,本件建物の隠れた瑕疵につき一切の担保責任を負わないものとする」と記載されていたが,契約締結交渉過程を通じてYからは自殺の事実を示唆するような言動は一切なかった。

裁判所の判断

建物内で自殺があったことは,売買目的物の「隠れた瑕疵」にあたるか」について

  • 本件では土地と建物が一体として売買目的物件とされ,代金額も全体として取り決められた
  • 自殺の存在が明らかになれば,さらに価格の低下が予想された
  • 自殺が比較的最近の出来事だったことからすれば,このような心理的要素に基づく欠陥も,民法570条にいう「隠れた瑕疵」に該当するというべきで,担保責任免除特約があったとしてもYは民法による担保責任を免れることはできない。

弁護士のコメント

本判決は,売買の目的物となった建物内での自殺が「瑕疵」に該当するとして,損害賠償請求を認容した事例です。

自殺や殺人という過去がある不動産は,物理的な欠陥がなくても一般的には買い控えされるため,価値の減少を招くものといえます(いわゆる心理的瑕疵)。もっとも、「隠れた瑕疵」に該当するといえるためには,単にその買主が居住を好まないというだけではなく,一般人を基準にしても「住み心地の良さを欠く」と感じられる程度に至る必要があると考えられていることには注意が必要です。

なお,売買を仲介した宅地建物取引業者が自殺の事実を認識していたのに買主に告知しなかった場合,買主は,当該宅地建物取引業者に対し,説明義務違反を理由に損害賠償請求をすることができる場合もあります(高松高裁平成26年6月19日判決参照)。

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