購入した土地の実測面積が契約書記載の面積よりも少なく、売買代金の減額請求が後日認められた事例

土地の売買取引においては、坪単価に面積を乗じる方法で売買価格が決定されることがあります。その場合、土地の公簿面積(登記簿上の面積)よりも実測面積(実際に測量して得た面積)が少なかったとき、買主は代金の減額や返還を請求できるでしょうか。今回は、買主Xが売主Yに対し、数量指示売買における売主の担保責任(民法565条、563条1項)に基づき売買代金の減額請求をし、支払った代金の一部の返還が認められた事例(最高裁平成13年11月22日判決を題材とした事例)を分析します。 

数量指示売買とは 

いわゆる数量指示売買とは、当事者において、目的物の実際に有する数量を確保するため、その一定の面積、容積、重量、員数又は尺度があることを売主が契約において表示し、かつ、この数量を基礎として代金額が定められた売買をいう(最高裁昭和43年8月20日判決)とされています。

本件では、XとYの売買が、この数量指示売買にあたるか否かが争点となりました。

本件訴訟で認定された事実関係 

まずは、裁判で認定された事実関係を確認しておきます。

売買契約締結に至る経緯

  • Xは、不動産仲介業者Aから、市街化区域内にある土地(公簿面積177㎡。以下「本件土地」という)を紹介され、その際A業者が持参した広告には「公簿177㎡(53.54坪)、価格3640万円、3.3㎡単価68万円」との記載があった。
  • Xは、A業者を通じ、坪単価が安くならないか売主Yと折衝したところ、Yは坪単価65万円に値下げする旨回答した。
  • Xは、本件土地をその価格で購入しようと考え、A業者と媒介契約を締結し、その媒介契約書には、本件土地の実測面積が177㎡、公簿面積も同様である旨の記載がされていた。
  • Xは、A業者に対し、本件土地の実測図面を要求したところ、A業者は、本件土地の面積が177㎡である旨が記載された公図の写しをXに交付した。Xは、この図面により本件土地の実測面積が177㎡であることが確認されたと考え、それ以上に実測図面を要求しなかった。
  • 同じ頃、Xは、A業者から重要事項説明書を交付され、同説明書には、本件土地の地積として「登記簿177㎡(53.54坪)」との記載はあったが、実測面積の欄は空欄だった。また、建築基準法に基づく制限の欄には、建築面積の限度として、「敷地面積177㎡×60%=106.2㎡」等の記載があった。
  • その後、売買契約書が作成され、そこには、「すべて面積は公簿による」との条項(以下「本件条項」という)があったが、A業者からはその意味についての説明はなく、XとYとの間でその意味が確認されたことはなかった。
  • Xは売買代金全額を支払った。

その後の経緯

  • 数年後、Xは、住居を新築するため土地家屋調査士に依頼して本件土地を測量したところ、実測面積が167.79㎡しかなく、9.21㎡不足していることが判明した。
  • Xは、Yに対し、代金の減額を求めたが応じてもらえず、既払いの代金の一部の返還を求めて訴えを提起した。

裁判所の判断

以上の事実関係を前提に、裁判所は次のような判断をしました。 

本件売買が数量指示売買にあたるか

最高裁は、以下の事情から、本件売買は数量指示売買にあたるとして、Xの代金減額請求を認めました。

  • XとYは、坪単価に面積を乗じる方法により売買代金額を算定することを前提に、坪単価について折衝をし、代金額の合意に至った。
  • 本件土地は、市街化区域内にあり小規模住宅用の敷地として売買されたにすぎず、山林や原野など広大な土地の売買とは異なり、実測面積と公簿面積とで5%を超える食い違いは契約当事者にとって通常無視できないところ、XはA業者に実測図面を要求するなど実測面積に関心を持っていた。
  • XもYも、実測面積が公簿面積に等しいとの認識を有していた。
  • 本件では、XもYも、実測面積以外の要素に着目して本件土地を評価し代金額を決定したという事情は認められない。
  • 本件条項は自体は、実測面積と公簿面積とが食い違う場合に代金額を減額しないという趣旨を定めたものとはいえず、A業者も本件条項がそのような趣旨であることを説明していない。
  • 以上の点からすると、売買契約書に登記簿の記載に基づいて本件土地の面積が記載されたのは、実測面積が公簿面積と等しいか少なくともそれを下回らないという趣旨によるもので、本件売買契約の代金額は本件土地の実測面積を基礎として決定されたものと解釈できる。よって、本件売買契約においては、本件土地が公簿面積どおりの実測面積を有することが表示され、実測面積を基礎として代金額が定められたものであるから、数量指示売買に当たる。

弁護士のコメント

本判決は、契約当事者が実測面積と公簿面積とが同じであるという認識を有した上で、坪単価を乗じて代金額を決定したこと等の事実関係を前提に、契約書上は「面積は公簿による」とされていたにもかかわらず、実測面積が一定数量あることを基礎として締結されたものとして、数量指示売買に当たると判断しました。

本判決が、当事者間の面積に関するやり取りを詳細に認定した上で、「本件土地が公募面積どおりの実測面積を有することが表示され」ていたことを、判断の根拠としていることからもわかるとおり、契約書に公簿面積や坪単価が表示されているからといって、常に数量指示売買といえるわけではないことに注意が必要です。

実務的には、いわゆる公簿売買であれば、実測面積との間に齟齬があっても売買代金額を変更しないことを契約書に明示し、いわゆる実測売買であれば、契約後に測量を行い代金額を精算すること及び精算時の単価を契約書に明示することにより、当事者間の紛争を未然に防ぐことが有用と考えます。

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