保証会社と家賃滞納による契約解除

賃貸ビルのオーナー業をしています。入居中のテナントが賃料を滞納し始めたことから、契約していた家賃保証会社より代位弁済を受けています。保証の上限が賃料一年分となっており、現時点で6ヶ月分を保証してもらいました。保証会社からテナントには求償請求をしているようですが、全く支払いがないとのことです。家賃保証契約のおかげで、現時点では私自身には損失はないのですが、賃料滞納を理由とする契約解除をすることはできるでしょうか。

保証会社の代位弁済と解除の可否 - 問題の所在

賃貸経営を行う上で、安定した賃料収入の確保を目的として家賃保証会社を利用している不動産オーナーも多いことと思われます。では、本問のように保証会社による代位弁済が継続している状況下において、賃貸人は家賃滞納を理由とした賃貸借契約を解除することができるでしょうか。このような状況下では、賃料不払いによる賃貸人の経済的損失は一応カバーされていることから、代位弁済の前提となる賃料不払いがあったとしても、解除の根拠となる債務不履行がない、あるいは賃貸人と賃借人間の信頼関係を破壊するものとはいえないのではないかが問題となります。

解除可能とした裁判例

賃借人側から上記のような主張がなされた裁判例として、大阪高等裁判所平成25年11月22日判決があります。この事案では、賃貸人が訴訟上で解除の意思表示をするに至るまで、1年分以上の家賃滞納をしていましたが、その滞納分は家賃保証会社によって代位弁済がなされていたようです。こうした事情のもとで解除の無効を主張する賃借人側の主張に対し、裁判所は「賃貸借保証委託契約に基づく保証会社の支払は代位弁済であって,賃借人による賃料の支払ではないから,賃貸借契約の債務不履行の有無を判断するに当たり,保証会社による代位弁済の事実を考慮することは相当でない。なぜなら,保証会社の保証はあくまでも保証委託契約に基づく保証の履行であって,これにより,賃借人の賃料の不払という事実に消長を来すものではなく,ひいてはこれによる賃貸借契約の解除原因事実の発生という事態を妨げるものではないことは明らかである。」との判断を示し、賃貸人側からの解除を有効と認めました。

コメント

家賃保証には保証上限額が設定されることが通常ですが、上記裁判例における賃借人側の主張を前提とするならば、保証限度額が満額になるまで代位弁済を受けとった後もなお滞納がある場合にしか契約解除をなし得ないということになります。しかし、そうだとすると、賃貸人は、家賃保証会社を利用したのにもかかわらず、解除後明け渡しまでの賃料未回収のリスクを負わなければならないという不合理な事態となってしまいます。こうした観点からみても、上記判決の結論は具体的事案の解決としては基本的に妥当なものと言えるでしょう。
とはいえ、例えば、賃借人本人が学生でありその父親が連帯保証人となっていたとか、賃借人が会社でありその代表者個人が連帯保証人となっているような事案で、何らかの事情があって連帯保証人名義での支払が数ヶ月継続され、賃貸人側もことさら問題視していなかったというような場合にまで、当然に契約解除が認められるということになるかは疑問があり、このような事情がある場合には、信頼関係破壊の法理によって解除が制限されることもあり得るものと思われます。

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