滞納家賃と敷金・保証金

賃貸オフィスビルの大家をしていますが、テナント会社のひとつが家賃を滞納して困っています。催促をすると、「保証金を預けているので今月はそれを充てて欲しい」と回答し、全く払うそぶりがありません。確かに、現在の賃貸借契約で賃料6ヶ月分の保証金を預かってはいるのですが、このような言い分が認められるのでしょうか。

敷金・保証金とは

敷金・保証金の目的

賃貸借契約を締結する場合、賃貸借契約に関連して発生する賃借人側の債務を担保する目的で、一定の金銭授受がなされることが通常です。住居用の不動産では敷金という名目の場合が大半ですが、事業用の物件の場合には保証金などの名目で同様の趣旨の金銭授受がなされることも多いです。その金額水準は、契約当事者の合意によって取り決められ、物件の種類や地域によって様々です(居住用物件より事業用物件の方が、首都圏より関西圏の方が高額となる傾向があります。)。

建設協力金と敷金

賃貸借契約を締結する場合、建設協力金などと称して敷金・保証金とは別の金銭授受がなされることもあります。このような建設協力金は、賃借人から賃貸人に対する賃貸物件建設資金の貸付の趣旨でなされることが多く、その場合、債務担保の目的でなされる敷金の交付とは異なる取り扱いを受けることがあります。逆に、建設協力金という名目であっても債務担保の目的で交付されたことが契約書の内容などから明らかであれば、その名目にかかわらず、敷金・保証金と同様の取り扱いを受けることになります。

敷金・保証金の充当

では本問のように、賃借人であるテナントが敷金を未払賃料に充てて欲しいと求めてきた場合、賃貸人である不動産オーナーはこれを拒否できるでしょうか。

賃借人の側から充当することはできない

この点、敷金や保証金は、あくまで賃貸物件返還完了時までの債務担保を目的とするものであるという性質を有しています。このため、賃貸借契約の存続中は賃借人の賃料不払いがあったとしても、特段の事情がない限り、当該賃料滞納の時点で当然に敷金・保証金が充当されるものではなく、また、賃借人の側から充当を請求する権利もないというのが判例です(もっとも、賃貸人の側から充当を行うことはできるとされています。)。目的物返還前は敷金返還請求権が具体的に発生していない以上、賃借人から相殺を主張することもできません。

契約解除で対応することも可能

以上からすれば、賃貸借契約書に賃借人の側から充当を要求できる特約条項などが記載されていない限り、本問のようなテナント側の言い分が認められる可能性は低いといえます。にもかかわらず、賃借人が一方的な主張を繰り返し、敷金・保証金からの充当を求めて賃料の滞納を継続する場合には、もはや信頼関係を維持することは不可能として、契約解除による立ち退きを求めることも考えられるでしょう。

判例

賃貸人が月額8万円の建物賃料を3ヶ月分延滞し敷金が16万円預けられていたという事案において「賃貸借契約において敷金が差しいれられていても、敷金の性質上、特段の事情のないかぎり、賃料延滞の場合賃料延滞を理由として契約を解除することのできないものでないことは明らか」として家賃滞納による契約解除を有効と判断しています(最高裁判所第2小法廷昭和45年9月18日判決)。

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