不動産取引における重要事項説明義務
自宅を購入したり、建物を賃借した際に、不動産業者から「重要事項説明書」というものを受け取ったことがあります。法律的にどのようなものなのか教えてください。
重要事項の説明義務とは
宅建業法35条1項は、宅地建物取引にかかる重要な事項について、宅建業者が自ら売主として宅地建物を売却する場合には買主に対し、宅地建物の売買もしくは賃貸借を媒介する場合には買主もしくは賃借人に対し、宅建士が記名押印した書面を交付して説明することを義務付けています。
土地や建物にかかわる取引では、一度トラブルが起きると当事者に重大な影響を及ぼしかねないため、重要な事項については書面でしっかりと説明をさせ紛争を予防させることを目的としています。
このような宅建業者の義務を、重要事項説明義務といいます。実務的には、このような説明自体、あるいは説明に際して交付する書面(重要事項説明書)を指して、重説(じゅうせつ)と呼んでいます。
重要事項説明義務の範囲
「宅建業法35条1項は、その1号から14号までに「少なくとも」重要事項説明書に記載して説明すべき事項を列挙しています。ただし、一般的には、これらの事項はあくまで「少なくとも」の例示列挙とされ、同項に記載のない事項であっても、買主等が当該宅地建物を取得するかどうか、もしくは賃借するかどうかの判断にあたって重大な影響を与える事項については、宅建業者が説明すべきものと解されています。
もっとも、現実にどのような事項が重要とされるかは、買主等の契約目的・属性や、物件の状況・環境等によっても異なってきますので、ケースバイケースで判断する必要があります。
どのような場合に説明義務違反といえるか
1 宅建業者が知っていたのに説明しなかった場合
宅建業法47条1項は、宅建業者が、宅建業法35条1項各号の列挙事由、もしくはそれ以外でも、取引条件等について取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすこととなる事実について、故意に事実を告げず、もしくは不実のことを告げる行為を禁止しています。
したがって、宅建業者がある事実を知っていたがこれを説明しなかった(敢えて隠した)という場合は、当該事実が重要なものでさえあれば、宅建業者の説明義務違反が認められやすいといえます。
2 宅建業法35条1項各号の列挙事由について説明を怠った場合
宅建業法35条1項各号の事項については、法律が明文で説明すべきと列挙しているわけですから、説明の前段階として、宅建業者に相応の調査義務が課されているといえます。
ですので、宅建業者が故意でなくとも、適切な調査を行ってもなお気付けなかったような場合を除き、説明義務違反が認められやすいと考えます。
3 それ以外の重要な事項について説明を怠った場合
個々の取引において、どのような事項が重要とされるかは、買主等の契約目的・属性や、物件の状況・環境等によっても異なってきますので、ありとあらゆる事項についてまで、宅建業者が調査して説明すべきと考えるのは行き過ぎであり、業者に酷だといえます。例えば、取引後に物件の瑕疵が発見された場合、買主からすれば一大事ですが、宅建業者に故意がなければ、直ちに説明義務違反となるものではありません。
このようなケースでは、宅建業者が調査(して説明)すべきであったといえるのか、調査義務を肯定する端緒があったか否かを検討して判断すべきと考えられます。
具体的には、例えば次のような事情があったのに調査を怠った結果、説明をしなかった(もしくは誤った説明をした)といった場合には、説明義務違反が肯定されやすいでしょう。
- 通常の業者であれば内見時に容易に気付く異変があった
- 買主から調査を依頼されていた
- 売主から抽象的な懸念は示されていた等の事情(端緒)があった