民法改正と不動産売買における瑕疵担保責任

「民法(債権関係)の改正に関する要綱仮案(平成26年8月26日決定)」によれば、改正後の民法では、瑕疵担保責任の規定が現行法から大幅に変更される予定と聞きました。実際の不動産売買取引への影響について教えてください。

「隠れた瑕疵」という言葉が消える

「隠れた」が消える意味

これまでの瑕疵担保責任では「隠れた」という限定があることにより、担保責任を追及する側が注意してもわからないような瑕疵であること、すなわち買主の善意・無過失が要求されていました。今回の改正では、このような限定がなくなることにより、買主に過失があっても責任追及自体は否定されなくなります(ただし、損害賠償にあたって過失相殺される可能性はあります。)。

ちなみに、買主が悪意の場合(瑕疵の存在を知って契約した場合)には、その瑕疵の存在が契約内容に織り込まれていると判断されるでしょうから、従来どおり担保責任の追及はできないはずです。このため、実務的には、容認事項の重要性が増していくと思われます。

「瑕疵」は「契約不適合」へ

今回の改正により、「瑕疵」という用語は使用されなくなり、「種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないもの」という表現の中に取り込まれます。

これからは「瑕疵がある」ではなく「品質が契約の内容に適合しない」であるとか、「契約不適合な部分がある」などと表現されるのでしょうか。実際の運用がどうなるかは不透明ですが、物理的な欠陥というイメージの強かった「瑕疵」(ただし、従来から心理的なものも含まれてはいました。)からの用語変更により、その存在の判断にあたっては、契約の内容、当事者の意思がより重視されていく可能性がありそうです。

契約不適合担保責任の内容

売主の追完義務

目的物に契約不適合がある場合、買主は売主に対し、「目的物の修補、代替物の引渡し又は不足分の引渡しによる履行の追完を請求することができる」と規定されます。

これまで請負契約の場合と異なり、売買契約の担保責任では、瑕疵修補請求はできないとされていましたので、今回の改正により、それぞれの事案に即した柔軟な解決が可能になると思われます。

買主の代金減額請求権

買主が相当の期間を定めて催告しても、なお売主が追完義務の履行に応じない場合、契約不適合の程度に応じた代金減額請求が可能となります。また、一定の場合には無催告での代金減額請求も可能です。

この代金減額請求権が、事実上、従来の瑕疵担保責任による損害賠償請求権に該当するものと言えそうです。

損害賠償請求と解除は債務不履行責任と一本化

損害賠償の範囲が拡大

売買契約の瑕疵担保責任に関するこれまでの伝統的な考え方は、いわゆる法定責任説というもので、売主の過失を前提としていませんでした。このため、従来は、売主が無過失責任を負う一方で、損害賠償の範囲については、仮に瑕疵のないものが引き渡されたならば得られた利益(履行利益)までは及ばず、瑕疵がないものと信じたことによる損害(信頼利益)に限られると考えられてきました。

  • 法定責任説: 「特定物売買における売主の義務は、その特定物を引き渡せば履行され、債務不履行責任を構成しない。その代わり、目的物に瑕疵(欠陥)があったような場合には、当事者の公平を図るため、瑕疵担保責任による損害賠償請求を認めた。」とする考え方。

極めて大雑把に言えば、200万円分の瑕疵のある建物を1000万円で購入してしまった場合、瑕疵がないと思って多く支払った200万円(信頼利益)の損害賠償は認めるが、1000万円の価値のある建物であれば得られた営業利益(履行利益)のような損害賠償までは認められないとされていたのです。(このため、上記で「代金減額請求権が、事実上、従来の瑕疵担保責任による損害賠償請求権に該当するものと言えそう」と述べました。)

しかし、今回の改正では、この点を大幅に修正し、契約の内容に適合しないもの(瑕疵あるもの)を引き渡しても売主の義務は(少なくとも完全には)履行されたことにならず、依然として債務不履行を構成するとされたのです。このため、従来の瑕疵担保責任による損害賠償請求では認められなかった履行利益の損害賠償請求が、契約不適合を理由に認められる可能性が生まれました。

売主の過失が要件に?

これまでの瑕疵担保責任による損害賠償請求及び解除が、債務不履行責任に取り込まれることにより、債務不履行責任一般の原則と同様、売主の過失が要件とされます。

しかしながら、債務が履行されていないこと(契約不適合)さえ認定されれば、その無過失の立証責任は売主が負うこととなり、この立証は容易でないとされていますので、実際上の不都合は大きくないものと考えられます。

請負人の担保責任にも変化が

これまでは、売買の瑕疵担保責任と同様、請負人の担保責任でも、瑕疵により契約の目的が達成できない場合の解除が規定されていました(民法635条本文)。今回の改正では、この解除も、売買と同様、債務不履行責任による解除に一本化されます。

このため上記の民法635条は削除となるのですが、問題は、但書(「建物その他の土地の工作物については、この限りでない。」)も一緒に削除されることです。建物の請負契約でも、契約不適合を理由に解除される余地が生まれるのです。

上記瑕疵修補請求もそうでしたが、これまでの民法では、新築の建売住宅を購入するか(売買)、建物建築を注文するか(請負)で、法的に扱いが異なる部分がありました。各当事者の立場により有利不利はあるのでしょうが、実態に即した改正という意味では賛成できます。

まとめ

以上にみたとおり、民法改正による瑕疵担保責任の条項の変更は、不動産売買取引にも少なからぬ影響を及ぼすものと考えられます。不動産売買取引に携わる方においては、裁判実務の動向にも注意を払いつつ、売買契約書の内容などにつき、適切な修正・改善を行うことが必要でしょう。

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