後見制度の代用や相続対策としての信託

最近、信託法が大幅に改正され、従来よりも使いやすい制度となったと聞いています。そこで、成年後見の代用や相続対策としての信託の活用方法について、ポイントを教えてください。

信託制度の概要

信託とは

信託とは、Aさん(委託者)が財産の管理や処分を信頼できるBさん(受託者)に託し、その財産の運用によって得られる利益をCさん(受益者)に享受させることを基本的な内容とする仕組みです。この場合、財産の所有権はBさんに移転しますが、Bさんは信託の目的に従って管理・処分する義務を負います。

このような信託は、AさんとBさんとの信託契約によって設定されることが多いですが、Aさんの遺言により設定することもできます。管理や処分に関するAさんの意向は、信託の目的として反映できますし、柔軟な設計も可能です。

なお、信託の法律関係のもとでは、委託者であるAさん自身が受益者となったり(自益信託)、委託者であるAさん自身が受託者として信託財産の管理処分を行うこと(自己信託、信託宣言)も可能です。

民事信託への注目

日本で信託というと、信託銀行や信託会社が営業として受託者となる商事信託が、これまでの中心でした。しかし、最近では、後見制度の代用や相続対策として、親族等が受託者となる非営業的な民事信託(このような類型を家族信託と呼ぶ人もいます。)も注目を集めてきています。

後見制度の代用としての民事信託の活用

法定後見制度

高齢や障害により判断能力が衰えてきた場合には、その能力衰退の程度に応じ、民法に規定のある「成年後見」「保佐」「補助」などの制度を利用して、本人の財産管理を行うことができます。

もっとも、これら法定後見制度は、実際に判断能力が衰えてから利用できる制度であるため、財産管理の内容や方向性について、本人の意向を反映することには限界が出てきます。

任意後見制度

また、このような不都合を回避するため、判断能力があるうちに本人が自ら契約を締結しておくことで、あらかじめ後見人を指定しておける任意後見という制度もあります。

もっとも、この任意後見契約の締結は公正証書でする必要があり、かつ、後見開始時に家庭裁判所から任意後見監督人を選任してもらう必要がありますので、手続に煩雑なイメージも強く、あまり普及しているとは言い難い状況です。

後見制度の代用としての信託

以上に対し、信託では、本人の判断能力が十分なうちに信託契約を行うことで、本人が指名した受託者に、本人の意向を反映した管理・処分を委ねることができます。

例えば、以下のようなケースでは、信託を活用してそれぞれの状況に合わせた設計が可能です。

  • 「収益不動産の所有者が、高齢で体力も衰えてきたので、管理・処分は長男に任せたいが、自らの存命中は収益を得て暮らしたい。」
  • 「高齢の男性が認知症の妻と二人で自宅に居住しており、自らの死後もしくは自らも認知症を煩った場合には、長女に自宅を売却してもらい、その費用で妻もしくは妻と自分を施設に入所させて欲しい。」

相続対策としての民事信託の活用

終活における財産処分の仕方としては、従来、遺言や生前贈与という方法が一般的でした。しかし、これらの方法では対応しきれないケースもあります。そのような場合に、信託を活用して被相続人の希望を満たすことができる例を2つ紹介します。

ケース1 後継ぎ遺贈型の受益者連続信託の活用

例えば、以下のようなケースがあったとします。

  • 子供のいないAさんは、自分の死後、妻であるBに自宅を単独相続させたいと考えている。
  • ただし、妻の死後は、妻の兄弟姉妹ではなく、自分の兄の子である甥Cに自宅を単独相続させたい。

この場合、遺言でこのような二次相続の指定(いわゆる後継ぎ遺贈)をしても、その効力には疑義が残ってしまいます。そこで、自宅不動産を信託財産とし、Cを受託者として信託を組成し、当初はA自らに使用収益する受益権を与え、Aの死亡後はBへ、Bの死亡後はCへと受益権が移るスキーム(後継ぎ遺贈型の受益者連続の信託・信託法91条)を使うメリットが出てくるのです。

実際に組成する場合には、税務上のデメリットの有無も考慮する必要がありますが、このスキームは、不動産の場合だけでなく、事業承継に役立つこともあると考えられます。

ケース2 収益不動産への信託設定

また、以下のようなケースがあったとします。

  • Dさんは、収益不動産を2棟所有している
  • Dさんとしては、長女Eに1棟、次女Fに1棟ずつ相続させたいと考えており、自らの判断能力が低下する前に管理も引き継いでしまいたい
  • ただし、Dさん自身のの存命中及びその妻の存命中は、不動産の収益から生活費を支弁したい

このような複合的な事案でも、信託財産の所有権と受益権を分離できる信託の法律関係の特長を生かし、受益権をDさんや妻にとどめたまま、Dさんを委託者、長女E及び次女Fを受託者とする信託を設定することで、本人の希望を実現することが可能です。

まとめ

以上にみたとおり、信託の法律関係は、その柔軟性から、高齢者の財産管理や相続に関連した多様なニーズに応える可能性を秘めた制度であるということができます。これから相続対策を検討される方においては、後見制度、遺言、生前贈与といった従来からの選択肢に加え、信託という選択肢も考えてみること、また、これらを組み合わせて使えないか考えてみることを、ぜひご検討ください。

法律相談のご予約はこちら

メールでのご予約

  • お問い合わせフォームへ