宅地建物取引士(宅建士)への名称変更
宅地建物取業法の改正により、宅地建物取引士という資格が誕生すると聞きました。改正のポイントや予想される実務への影響について教えて下さい。
宅地建物取引主任者から宅地建物取引士へ
平成27年4月1日、一部改正された宅地建物取引業法(宅建業法)が施行され、これまでの「宅地建物取引主任者」は「宅地建物取引士」へと名称が変更されることとなりました。以下では、この名称変更に伴って何が変わるのか考えてみたいと思います。
宅建業法条文改正のポイント
宅地建物取引士の業務処理の原則(宅建業法第15条)
「宅地建物取引士は、宅地建物取引業の業務に従事するときは、宅地又は建物の取引の専門家として、購入者等の利益の保護及び円滑な宅地又は建物の流通に資するよう、公正かつ誠実にこの法律に定める事務を行うとともに、宅地建物取引業に関連する業務に従事する者との連携に努めなければならない。」
弁護士コメント
これまでも宅建業法第31条に「宅地建物取引業者は、取引の関係者に対し、信義を旨とし、誠実にその業務を行なわなければならない。」として、業者の義務が規定されていましたが、今回の改正では、宅地建物取引士そのものの公正誠実義務が規定されることとなり、従来からの業者の原則よりも更に詳細な規定がおかれることとなりました。
信用失墜行為の禁止(宅建業法第15条の2)
「宅地建物取引士は、宅地建物取引士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。」
弁護士コメント
宅地建物取引士の業務は、取引の相手方のみならず社会からも信頼されなければならないことから、その信用を傷つけるような行為をしてはならないとして新設された規定です。
知識及び能力の向上(宅建業法第15条の3)
「宅地建物取引士は、宅地又は建物の取引に係る事務に必要な知識及び能力の維持向上に努めなければならない。」
弁護士コメント
宅地建物取引士は、宅地建物取引の専門家として、最新の法令等知識の更新に努め、必要な実務能力を磨くよう新設された規定です。
従業者の教育(宅建業法第31条の2)
「宅地建物取引業者は、その従業者に対し、その業務を適正に実施させるため、必要な教育を行うよう努めなければならない。」
弁護士コメント
以上のとおりの宅地建物取引士に対する新設規定に加え、宅建業者に対しても従業者を教育すべきとする規定が新設されています。
何が変わるのか
「宅建主任者が宅建士になって何が変わるのか?」という質問をよく受けるのですが、正直なところ、今回の改正は抽象的、観念的なものとも言え、実務上、4月になった瞬間に何かが大きく変わる可能性は少ないでしょう。
むしろこれまでに、アスベスト、土壌汚染、大地震による液状化、耐震問題、等々、宅地建物を取り巻く社会問題が起こる度に、法令の改正や依頼者ニーズの高まりにより、重要事項説明等における宅建業者の業務は、すでに複雑化、高度化してきていました。そのような業務の高度化に十分に応えてきた宅地建物取引主任者からすれば、今回の名称変更は、法律の要請に名前が追いついたように感じるかもしれません。
とはいえ、今回の名称変更を主とする改正は、更なる業務の複雑化、高度化や、指導の強化の論拠にされていくだろうと推測していますので、今後の宅建業者全体のレベルの底上げにつながることを期待したいです。